「自己破産すると、取り立ての人たちが家に押しかけて、家財道具に差し押さえの用紙を貼っていく…」
そんな誤ったイメージがメディアによって定着していて、自己破産に対する世間の目は未だにネガティブなものとなっています。
実際には取り立ては禁止されますし、破産管財人が家に来ることもありません。
自己破産はあくまでも経済的自立のための最後のセーフティーネットです。
財産を根こそぎ奪い、生活を困窮させ、破産者をさらに貶めるための制度ではありません。
では、自己破産手続きを行うと、どのような家財・私物が没収されることになるのでしょうか。

自己破産手続きのうち、目ぼしい財産があると「管財事件」として処理が進められます。
管財手続きのうえで、換価処分の対象となるのは「破産財団」と呼ばれる財産です。
主に20万円以上の価値がある自動車や不動産などが換価処分され、債権者に売却金が配当されます。
しかし、生活に必要な家財道具や一般普及している家電製品などは、差押が禁止されている動産として法律で規定されています。
詳細は本文を確認してください。
自己破産すべきか迷っている方へ
自己破産すると、必ず財産が差し押さえられるの?
まず、自己破産には大きく分けて、「同時廃止事件」か「管財事件」の2種類があります。
換価処分できるような目ぼしい財産がない場合は「同時廃止事件」となり、家財が没収されることはありません。
「管財事件」となると、財産の調査を行うために破産管財人が裁判所から選任されます。
また破産者が所有している財産は以下の「破産財団」「自由財産」「新得財産」に3種類に分類されます。
破産財団 | 破産者がすでに所有している財産で、換価処分と対象となる |
自由財産 | 破産者がすでに所有している財産のうち、換価処分がなされないもの・禁止されているもの |
新得財産 | 自己破産手続きよりも後に入手した財産で、換価処分の対象にはならない |
このうち「破産財団」に当てはまるのが家や車などといった財産です。
この中から、20万円以上の価値がある財産を、破産管財人が換価処分し、債権者に配当することになります。
では、この「破産財団」には、家や車の他に、一体どのような家財・私物が含まれるのでしょうか。
管財事件の時、差し押さえられるものはなに?
自己破産における管財手続きにおいて、「破産財団」に含まれる主なものは以下のとおりです。
ドラマなどでは、自宅に債権者が押しかけ、家財道具一式を持ち去ってしまう…。
そんなシーンがありますが、実際にはそういった強引な手続きはありません。
換価処分対象となる財産は、自分から申告する
自己破産手続きにおいて、破産者は自分の持っている財産をリストアップし、破産管財人に提出します。
破産管財人にはそれをもとに換価処分するものを選別し、任意売却を行っていくのです。
つまり、破産財団は自己申告するもの、というわけですね。
この中には著作権なども含まれますが、一般的な基準としては「その財産の価値が20万円を超えているか」で判断されます。
代表的なものには、不動産や車、船舶、その他動産などが挙げられます。
基本的に、管財手続きにおいてテレビやエアコン、洗濯機などが差し押さえられることはありません。
これらは最低限の生活を送るために必要不可欠な家財道具だと見なされるためです。
しかし高価な製品を複数所有している場合には、換価処分の対象となる場合もあります。
もちろん、換価できるものがあるのに、それを自己申告しないでいるのはNGです。
また、家や車の名義を変更すると「財産隠し」として免責が不許可となる場合があります。
包み隠さず、正直に申告するようにしてください。
破産管財人に差し押さえられないものはなに?
それでは、破産管財人に差し押さえられない家財・私物には、一体どのようなものがあるのでしょうか。
民事執行法第131条に記載されている「差押禁止動産」から具体例を見ていきましょう。
具体例 | ||
1 | 生活に欠かせない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具 | 洋服やベッド、タンス、冷蔵庫やレンジ、炊飯器など |
2 | 1ヶ月の生活に必要な食料及び燃料 | 食糧、灯油など |
3 | 標準的な世帯の2か月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭 | 99万円以下の現金 |
4 | 農業従事者の仕事に欠かせない器具、肥料、労役の用に供する家畜やその飼料 次の収穫まで農業を続行するための種子 その他これに類する農産物 |
牛、豚、鶏やその飼料 米や果物などの農産物、その種子など |
5 | 漁業従事者の水産物の採捕、養殖に欠かせない漁網などの道具やえさや稚魚 その他これに類する水産物 |
漁に使う網やその餌など |
6 | 技術者、職人、労務者など、自分の技術による業務に使用する道具・機材など ただし、商用車や在庫商品を除く |
|
7 | 実印、その他の印で職業や生活に欠くことができないもの | 印鑑 |
8 | 仏像、位牌など、礼拝や祭祀に使用するもの | 仏像、位牌など |
9 | 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類 | 商業帳簿、個人的な日記など |
10 | 債務者又はその親族が受けた勲章や名誉を表章する物 | 本人や家族の勲章、トロフィーなど |
11 | 学校などの教育施設における学習に必要な書類や器具 | ノートや鉛筆など |
12 | 発明、著作にかかわるもので、まだ世間に公表していないもの | |
13 | 生活に必要な義手、義足、その他の身体の補足に必要なもの | 義手、義足、ペースメーカーなど |
14 | 建物に備え付けの災害防止、保安のため、法令の規定により設備が必須の消防用の機械、器具、避難器具など | 消火器や避難経路案内など |
引用:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S54/S54HO004.html
差押禁止のものを一通り見てみると、最低限の生活が保障されているということがよくわかりますね。
特に気になるのは「生活のための家財が差し押さえられないかどうか」ですが、基本的には生活必需品や日用品の差し押さえは禁止されています。
差し押さえが禁止されているもの | 具体例 |
一般普及している家電製品 | 冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、調理器具 |
テレビ、パソコン、DVDデッキ、ゲーム機 | |
掃除機、洗濯機 | |
携帯電話、スマートフォン、ガジェット端末 | |
生活に必要な家具 | ベッド、寝具 |
タンス、衣服 | |
食器や棚、テーブル、椅子 | |
机(デスク)、本棚 | |
その他財産価値が低いとされるもの | 書籍、漫画、CDやDVDなど |
こうした生活に必要なものの差し押さえは禁止されています。
寒い地域でストーブを差し押さえられたら凍えてしまいます。
衣服がなければ生活再建なんて以ての外ですよね。
ですので、例え管財事件となったとしても、身ぐるみをすべて剥がされるような事態にはなりません。
こうした差押が禁止されているものの中には他にも給料債権、国民年金の受給権も含まれます。
自己破産をしたとしても、その後の生活ができないようでは意味がありません。
まとめ:家財道具はほとんど安心。高価なものに限っては例外となるかも?
ご紹介したとおり、自己破産をしても没収されてしまう家財道具はほとんどありません。
滞納をしていない限りスマートフォンも続けて利用できます。
家電製品が持ち運ばれてしまうこともないのです。
しかし、古くから使ってきた価値のある家具や、買って間もない電化製品などは換価対象となる可能性があります。
破産管財人にその事実を隠すと、免責不許可となり、自己破産できずに債務が残る可能性が出てくる事態に発展しかねません。
弁護士とよく相談した上で、自分の財産のうちどれが換価対象になるのか、よく調べておくようにすると安心ですね。
自己破産したくないけど、借金は減らしたいなら